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[THE IDEON] デザインアレンジのコンセプトについて

2020/10/28

「伝説巨神イデオン」のテレビ放送を僕が初めて観たのは再放送で、美術の専門学校生だった時でした。それまでガンダムなどのロボットアニメを通過してこなかった僕としては、イデオンは同級生の境くんがオススメする超シリアスなアニメーション作品として、境くんの解説つきで小っさいブラウン管に見入ってた記憶があります。その印象は独特というか異色というか…とにかく忘れがたい存在になったのは間違いありません。僕がとくに惹きつけられた設定は、イデオンが“地中から発掘された大昔の異星人が造った遺物”ということでしたが、当時そのデザインがパッと見は発掘された異文化の産物には…見えづら……いや、地球人の既成概念を裏切るこの色このカタチこそが!第6文明人のオーバーテクノロジーとして説得力があるんだ!と言い聞かせ、自分なりのデザインにアレンジ妄想するにも脳内の引き出しの数や深さがまだまだ足らないことを棚に上げ、頼まれてもいないのに勝手に「これはリデザイン無理っだなー」と思考停止しておりました。

時を40年近く経まして、THREEZEROからお仕事の依頼を頂いたときに“ロボットものでなにか”ということでしたので、過去に自分の技量不足で挫折したほろ苦いイデオンの思い出が(誰も頼んでないって)突如頭の中によみがえり、専門外・分不相応感絶大なのは分かっていても「今だったらどんなのができるんだろ」という好奇心に勝てずに引き受けさせていただきました。

 そういえば、三十数年前に小林誠さんのところにアルバイトに行ってる時、小林さんがアレンジして作るイデオンを手伝ったことがありました。作業は胸のあたりをエポキシパテでムニュムニュっとやったくらいですが、アレンジ画が「こんなにしちゃっていいんですかっ!?」という異常にカッコよくシビレる絵で、小林さんは「いいのいいの」なんて言ってましたが、あんなに振り幅の激しいアレンジは未だ見たことがない…あっそれでまだ若い僕は「ああ、このくらいまでアレンジしてもいいんだー」と刷り込まれ、その後いろいろと問題……いえいえ!人のせいにしてはいけません!それから時が経ち大人になった僕は元のデザインを最大限尊重してアレンジするように心がけているんですホントです。なので、今回は“元のデザインにあるものはある”という法則で!…とはいえ、タイヤやキャタピラは……オーバーテクノロジー感になじまないので、あれは地球人が勝手につけたってことにして!“第6文明人が造った当初の姿に思いを馳せて”をアレンジコンセプトにいたしました。あっでも変形合体は当初からあったんだっけ……これカタチのツジツマ合いませんがそこはCG変形ってことで!何言ってんだごめんなさい。

まずはアレンジ画から進めるわけですが、全体のプロポーションと同時に顔(に見えるところ)のアレンジも重要なので、あの顔の何が“イデオンらしさ”なのかをあらためて観察・分析しました。シンプルなデザインだけに、ちょっといじると「ジムでもいいじゃん」とか「ガンキャノンぽくね?」てなことになるので慎重に…結局、個々のパーツを強調していくという当り前の手法に落ち着き、バイザー的な部分はツルンとクリアーパーツじゃなくってラジエーターというかシリンダーのギザギザみたいになってて、あの横方向に走る光を連想させつつメカ的な構造感をねらうとか、アオリで見たときに覆いかぶさり巨大感を強調するためにモヒカン的な部分を大きくしてみたり、アンテナ的な部分の“ヤマト感”をちょっと変質させて先を重そうにして他の部分とのバランスをとってみたり、全身には地球のテクノロジーから遠い感じを思わせるため“装飾なのか機能的意味があるのか判然としない”幾何学的パターンを散りばめるという…ああだんだん作るのが大変なデザインになってきたぞーと思いつつも問題先送りで一応のアレンジ画を描いてから、立体作業へ移行します。

そこで悩ましいのは、こういう左右対称のメカならデジタルデータで作成して3Dプリンタで出力するのが正しいというか、とるべき段取りというか、手で作るのムリでしょというか……ですが、巨大モノだし頭が小っさいのでできるだけ大きく作りたい大きいと出力費用超高い知り合いの会社の仕事したギャラと交換でフォルムだけデータ作成&出力をお願いでもディテールまでは諸事情でムリなので作図してエッチングパーツを発注出力品にエッチングパーツ貼るが手が足らないので藤岡ユキオさんにお願い藤岡超絶に貼り込むがスケジュールと予算の都合で6割がた貼ったところで谷口順一と磨田圭二朗にバトンタッチするも藤岡の貼り込みに合わせるのに超苦労!結局大幅に締め切りを(何度も)伸ばしていただき予算も使い切り…こんなことなら最初からデジタルで最後まで作って出力したほうが…でもなんとかヒーヒー言いながら完成!すると結局「スキャンしましょうか…」とTHREEZEROさんからご提案いただき!笑ってください僕の段取りの悪さを!こんなやり方で作るのは史上最後ではないでしょうかねーアハハ(お前が笑うんじゃねえ!)。おかげさまでデジタルデータ化して関節などの可動部を仕込んでいただき製品となるので素晴らしい精度のものになりますので結果オーライ!……ですよね。

僕としてはこれから、第6文明人の古代遺跡として屹立する姿を経年感バリバリで仕上げてみたいと思っています。そんな場面はないんですが、きっと似合うと思うんです。 

プロフィール

竹谷隆之(たけやたかゆき)

 造形家。1963年12月10日生まれ。北海道出身。阿佐谷美術専門学校卒業。映像、展示、ゲーム、トイ関連でキャラクターデザイン、アレンジ、造形を手掛ける。

 映画「シン・ゴジラ」ではキャラクターデザイン、「巨神兵東京に現る」で巨神兵の雛形制作、「ジブリの大博覧会・王蟲の世界」の雛形制作・造形監修を担当。  主な出版物 /「漁師の角度・完全増補改訂版」(講談社)、「リボタケ本」(二見書房)、「造形のためのデザインとアレンジ 竹谷隆之精密デザイン画集」(グラフィック社)、「ROIDMUDE竹谷隆之 仮面ライダードライブ デザインワークス」(ホビージャパン社)、「畏怖の造形」(玄光社)など。